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Seventh Son of a Seventh Son / IRON MAIDEN
絶叫者ヨハネ ★★ (2005-11-19 17:21:00)
黄金期のラストを飾る傑作7th。創作面の閃きがピークにあった時期にリリースされた、メンバー公認の代表作です。未来を見通す超常の力をもって生れた〈七番目の息子の七番目の息子〉なる人物の悲劇的な運命を描いた、神話的なコンセプトアルバム。

「あのアルバムには魔法がある。これこそIron Maidenだ、いいたくなるような何か神秘的で壮大なものがあった。」とメンバー自身が後に語っているように、今作には当の本人たちにもわからない何か謎めいた力が宿っているようです。
前作同様、音の向こうに世界が広がる独特の曲調は、もはやロックの枠を超えて古典芸術の域。楽曲のレベルの高さはもちろんのこと、メンタルな面に作用するような魅力があります。スピリチュアルなパワーを秘めた作品ということでは、3rdに通じますが、あちらが歌詞のテーマとあいまってかなり「Evil 邪悪」な雰囲気だったのと対照的に、こちらはどことなく「Holy 神聖」な気配がします。

Somewhere〰のノイジーで荒廃した音像とは、音の雰囲気がガラリと変わりました。 前作のネオンライトの刺激的な色彩から、辺りに広がるラベンダーの花畑のようなパステルで柔らかい色調になっています。たまに風に乗って涼しい香りがやって来たりもします。Keyやギターシンセの冷たく澄んだ音色といい、全体を包む幻想的な淡い空気といい、とても優美で女性的な柔らかさを感じさせます。ちょうどバンド名を構成する二つの単語Iron(鋼鉄)とMaiden(処女)のうち、後ろの〈処女〉のイメージをもっとも強く感じさせるアルバム。
冷たく美しい乙女の肖像という感じで、一般受けがよさそうなポップで上品な雰囲気が特徴。ロック的な熱さを抑えて、音楽的な美と洗練を正面切って追求しているようです。もはやデビュー当時の「娼婦ハーロット」的ないかがわしさはひとかけらもありません。いわゆる「メタル」のイメージとは程遠い、クールでエレガントな音像です。

前作にも増して曲がメロディアスになり、ほとんどメロディ主導の音楽になっています。Maidenの美学の結晶といえる名曲④やツインギターが活躍するバラード風の②、後半の荘厳な展開が感動を呼ぶ神話的大曲⑤、神秘的な美しさをもつ旋律に意表をつく展開が重なる⑦、透明な哀しみの中、流れるように疾走するラスト曲⑧など、ほとんどすべての曲に耳を惹くメロディが備わっています。しかもただ綺麗なだけではなく、独特の透きとおった哀感と儚さを感じさせるのが魅力的です。テーマにふさわしく夢幻的な浮遊感があり、それでいてやや不吉な感じをはらんでいます。

しかし、このスタイリッシュで水晶のように澄んだサウンドを、HMと呼ぶのはためらわれます。いつも以上に当たりの柔らかいGや、攻撃性を抑えた楽曲に加え、空間的な広がりを大事にした音響感覚からして、これはHMというよりプログレ風ハード・ポップ、と形容したくなります。
つまりこれはIron Meidenというバンドの代表作ではあっても、へヴィメタルというジャンルを代表する作品ではありません。

もともとこのバンドの音は、メタルというにはやや軽く、曲の方も典型的なHMとは一線を画した独特のスタイルで、音楽的にはRainbowやJudas Priestのような、いわゆる“正統派"の流れからは明らかに外れたバンドでした。(サウンド面では、ベースの音量が大きく輪かくがハッキリしていること、反対にギターは軽くてエッジが弱いのが特徴。このため、音像全体の質感が通常のメタルとは明らかに異なり、どちらかというとパンク/ハードコアに近い印象になる。また曲の上では、複雑な展開に加え、独特の跳ねるリズム感による影響が大きい。)
実際デビュー当時は、「これはパンクなのか?、ハードロックなのか?、それともプログレッシヴ・ロックか?」ということで、どの文脈で扱えばいいか困るバンドだったそうです。同じ有名バンドでもMetallicaやJudas Priest、Helloweenなどと比べると、MaidenはHM好きの間でもわりと好悪が分かれるというか、よく「素晴らしいことは確かだが、あまり初心者向きではないバンド」と表現されることが多いのも、ここらへんの非HM色の濃い出目と関係があるようです。

実際、メタル度が高かったのは初期の三作と5thくらいなもので、それ以外はメタリックなギターを主軸とした、知的でドラマティックなプログレ・パンクといった趣きでしたが、このアルバムではそれがよく現れています。メタリックな音にこだわることなく、自分たちの音楽のエッセンスを今一度見つめ直したことが、今作の大成功につながったように見えます。

その一方で、5thまでの音楽性を好む人々は前作やこのアルバムあたりから「軟弱になった」「大げさになりすぎた」と感じることがあるようです。これは結局、彼らに初期のような「尖ったHMサウンド」を期待するのか、それとも「Iron Maidenらしいセンスの音楽」を求めているかによるのでは、と思います。私としては、以前よりHM的でなくなったといっても、彼らの音楽の本質には何のかかわりも無い、と思うのですが。

以上のような事情から、本作は「HMというジャンルの傑作」としては素直に勧められる作品ではありません。しかしたいへん聴きやすく、絶頂に達したバンドの創造力がいかんなく発揮されている点から見て、これからIron Maidenの世界に足を踏み入れようとする人は、まずはこのアルバムで歓喜の洗礼を受けるのがよいかと思います。
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